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大きな森の木の下で 第三話



今から数時間前のこと。
クリスは自分の部屋で、パルムさんと一緒に作ったお菓子のレシピを
スクラップブックにまとめていた。
マスキングテープで飾り付けしたり、カラフルなペンで書き込みをしたり。
まるで女の子のようである。
パラパラとめくりながら、増えていくページ数を確認し悦に入っていた。

「ただいまー!」

下の方からドロシーの声がした。
時計を見ると、お昼近く。
今日は土曜日なので、午前中でお仕事は終わり。
昼食の支度もあって、早めの帰宅だ。

「おかえり、マ…」

出迎えに行ったクリスはそこで凍りついた。
帰ってきたのはドロシーだけではなかった。
彼女の隣には男性が一人、立っている。
初対面ではない。
数回、会ったことがある。
ドロシーと同じ職場の人だ。
人が良さそうな、ドロシーより少し年上の、背の高い男性である。

どうして一緒にいるんだろう。

なんて。

聞かなくたって分かるけど。

「こんにちは、クリス君」

彼は笑顔で挨拶をする。
クリスは少し鼻白み、彼から目を逸らした。

「…こんにちは」

すごく低いトーンで、かろうじて言葉を絞りだす。

「こら、クリス!どうしたの、そんな態度…」

言い終わる前に、クリスは二人の間を割って、玄関の外へ飛び出した。

「どこ行くの!待ちなさい!」

ドロシーの声を後ろに、振り返りもせずにひたすら走る。
涙がにじむ。
耳の奥がぐわんぐわんと響く。

もう。
何も聞こえない。

聞きたくなんか、ない。



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