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大きな森の木の下で 第二話


ぴんぽーん

「はあーい」
玄関のチャイムが家中に響く。
クリスの母、ドロシーは、ガチャリと玄関のドアを開けた。
からんころん、と玄関ドアから吊り下げられた鈴が鳴る。

「あら、エイプリルちゃん。いらっしゃい」
「おはようございます」

エイプリルはぺこりとお辞儀をした。

「ええと。クリス君は」

「起きてる。
 おーいクリス、エイプリルちゃんがきたよー」

ドロシーは後ろを向いて、大きな声でクリスを呼んだ。

遠くから返事をする声がする。

「ありがとうね。
 エイプリルちゃんが迎えに来てくれるおかげで、
 あの子も学校に行く回数が増えたわ」

「いえいえ。私はただ」

『学級委員長としての務めですから』

言葉が重なった。

しばし見つめ合ったあと、二人は一緒に笑い出した。

「???」

後ろから来たクリスは、不思議そうに二人を見ていた。

さて、あの森の出来事のあと。
クリスとエイプリルの距離がなんとなく縮まり、
エイプリルは週に3、4回ほど、朝、家に迎えに来るようになった。
毎日ではない、というところがミソ。
あまりしつこくしても嫌がられるだろうし、まずは1日置きに、少しずつ増やしていこう、
という計画である。
なんというか、世話の焼ける生徒だ。

ただ、特に二人がお付き合いしている、というわけではなく
前よりも心を開いた程度のレベルではあるが。
心を開ける人がいる、というだけでも大きな進歩だ。
クリスにとっては。

そしてもう一つ。
森での出来事以来、あの森は生徒たちの間で
「暗黒魔女の森」と呼ばれ、恐れられるようになった。
広めたのはもちろんケント達3人組である。
「あ」
通学途中、二人は3人組とばったり遭遇した。
「お、おう。元気か」
ケントは片手を上げる。
「おはよう、みんな」
にこやかにエイプリルは言うと、ケントになにやらこそこそと
耳打ちした。
「わ、分かってるよ。」
引きつった笑いを浮かべたあと
「じゃあな」
と残してそそくさと去って行った。
慌てて残りの二人も追いかける。
何を話したのか分からないが、あれ以来ケント達はエイプリルには頭が上がらなくなった。

パルムさんの思惑とは少しずれたようだが、まあ良しとする。

学校に行くのが、少し楽になった気がする。
朝の眩しい太陽の光が降り注ぐ。
クリスは柔らかく微笑み、図書室へと向かった。

「え?今日は教室に行かないの?ねー、待ってよー!」

ああ、今日も良い天気だ。




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