起きたついでにトイレで用を足し、洗面所の前で手を洗いながら目の前の鏡に映る自分の顔を見る。
少し日焼けをしているが、いつもの自分だ。 続けて首元を確認する。 特に手の跡などは付いていない。
冷たい水で、ばしゃばしゃと顔を洗った。 ひんやりと心地よい。 汗と共に、嫌なものまで洗い流された気分だ。
ふう。
とため息をついて顔を上げる。
顔を上げたとたん、誰もいないはずの俺の後ろに誰か立っている・・・
のではないかと、そんなありがちな想像をしてみるのだが、幸いなことにそんな怪奇現象は起きていない。
・・・考えすぎだって。
自分に言い聞かせ、コップで水を一杯いただく。
体も心もすっきりとしたところで、俺は部屋へ戻ることにした。
深夜なので、廊下を静かに歩く。
おや。 自分の寝る部屋へ戻るはずなのに、なぜか足は別の方向へ向いてしまう。
いやいや。
怖いから。
真夜中だし、暗いし、一人だし。
・・・などと考えているうちに、結局たどり着いてしまった。 例の場所へ。
「あーあ・・・」
誰にともなく、呆れたため息をもらす。
昼間に調べた時に、何となく考えていた事がある。
昼だから、ただの壁だったのではないか?ということ。 はじめて、あの不思議な女の子に会ったのも真夜中だった。
夜になると開く、秘密の通路のようなものがあったりして。 そんな荒唐無稽な事を考えていたのだが。
どういう仕組みか?までは深く考えてはいない。
それにしても、昼間は確か間接照明のようなものが置かれていたはずだ。
だが今はない。 どこまで続くのか分からないくらい、奥が真っ暗だ。 雰囲気が違う。 でも方向は間違っていない。
これは、あの女の子にまた会えるチャンスかもしれない。 会ったところで、何か用事があるわけでもないのだが、
あの寂しそうな顔がなんだか、忘れられないのだ。
話し相手くらいになら、なれるだろう。
「・・・・・・・・・・」
あたりをきょろきょろと見回し、誰もいないことを確認する。
また後ろから殴られたら、たまったものではない。
俺は意を決して、廊下を奥の方へ進むことにした。
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