■■■■■

 

大きな森の木の下で 第二話


「で、クリス君は何を持ってきたの?」

校門の前で待つクリスに後ろから声を掛けるエイプリル。
頭には自転車通学用のヘルメットをかぶり、手にはカバーの付いたテニスラケットを握りしめていた。

「あ、これ?テニス部の子に借りたの。オオカミに襲われそうになったら、これで防ぐよ」

そう言いながらラケットをぶんぶんと振った。

「そ、そうなんだ。すごいね…」

勢いで参加した割にはやる気まんまんである。
クリスは、ロビンにうまく避けてくれることを祈った。

「お、もう来てたのか。逃げずに来るとは感心だな」

さらに3人組も合流し、これで全員が揃った。
3人は宣言通り、それぞれの手にはバットがある。

「なんだ、クリスは何も持っていないのか。
 どうやって戦うつもりなんだ、お前」

「いや、僕はそういうことはしないよ…。オオカミを説得…できたら良いかなーって」

そう言った途端、3人は吹き出した。

「はああ?お前オオカミと話せんのかよ。どうやってやるつもりだ?」

人の言葉を話すオオカミがいるんだ。

などと言えるはずもなく。
言ったところで信じてもらえるとも思えない。
取り敢えず、笑ってごまかした。

「あ。」

と言ってエイプリルは、ポンと手を叩く。

「分かった。それで『ドリトル先生』シリーズの本を読んでいたのね!」

「お前バカじゃねーの。その本読んだからって、動物と会話できるわけじゃねーんだよ」

「……なんかむかつく…」

エイプリルは変な味のものを口にしたような嫌な顔になった。

「あのー。そろそろ行こうよ。あまり遅くなるとママに怒られるし」

ジャンが遠慮がちに言う。
こういうところが10代の子供らしいところだ。
オオカミに喧嘩を売るのがどういうことか、あまりよく分かっていない。
まるで森へピクニックに行く気分だ。

バットを持った男子が3人、テニスラケットを持った女子が一人、手ぶらが一人。
傍目に見れば、部活帰りの中学生集団か何かに見える。

何だか微妙な空気になったまま、5人は森へと向かった。

 

・・・次のページ>>          目次

メニューへもどる

■■■■■