「で、クリス君は何を持ってきたの?」
校門の前で待つクリスに後ろから声を掛けるエイプリル。
頭には自転車通学用のヘルメットをかぶり、手にはカバーの付いたテニスラケットを握りしめていた。
「あ、これ?テニス部の子に借りたの。オオカミに襲われそうになったら、これで防ぐよ」
そう言いながらラケットをぶんぶんと振った。
「そ、そうなんだ。すごいね…」
勢いで参加した割にはやる気まんまんである。
クリスは、ロビンにうまく避けてくれることを祈った。
「お、もう来てたのか。逃げずに来るとは感心だな」
さらに3人組も合流し、これで全員が揃った。 3人は宣言通り、それぞれの手にはバットがある。
「なんだ、クリスは何も持っていないのか。 どうやって戦うつもりなんだ、お前」
「いや、僕はそういうことはしないよ…。オオカミを説得…できたら良いかなーって」
そう言った途端、3人は吹き出した。
「はああ?お前オオカミと話せんのかよ。どうやってやるつもりだ?」
人の言葉を話すオオカミがいるんだ。
などと言えるはずもなく。 言ったところで信じてもらえるとも思えない。 取り敢えず、笑ってごまかした。
「あ。」
と言ってエイプリルは、ポンと手を叩く。
「分かった。それで『ドリトル先生』シリーズの本を読んでいたのね!」
「お前バカじゃねーの。その本読んだからって、動物と会話できるわけじゃねーんだよ」
「……なんかむかつく…」
エイプリルは変な味のものを口にしたような嫌な顔になった。
「あのー。そろそろ行こうよ。あまり遅くなるとママに怒られるし」
ジャンが遠慮がちに言う。 こういうところが10代の子供らしいところだ。
オオカミに喧嘩を売るのがどういうことか、あまりよく分かっていない。 まるで森へピクニックに行く気分だ。
バットを持った男子が3人、テニスラケットを持った女子が一人、手ぶらが一人。 傍目に見れば、部活帰りの中学生集団か何かに見える。
何だか微妙な空気になったまま、5人は森へと向かった。
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