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大きな森の木の下で 第二話


朝。
クリスの母ドロシーは、朝刊を読みながら険しい顔をしている。

「おはよー、ママ」
眠そうに目をこすりながら、クリスがキッチンに入ってきた。

「あ、おはようクリス。よく眠れた?」
「んー、うん。まあまあ」
「朝食の支度するから、顔洗っておいで」
「はあい」

まだ半分目覚めていないのか、ふらふらしながら
クリスは洗面所の方へ歩いていく。

再び新聞の方へ目をやるドロシー。
新聞の片隅の、町の出来事を記した小さな記事。
昨日この近所で発生したらしい事件に釘付けになっている。

「ねえクリス。今日は森の方に行くの」
目玉焼きとソーセージ、サラダののったお皿をテーブルに置き、
ドロシーは尋ねた。

「ええと、今日は学校に行くよ。
 帰りに寄るかもしれないけど」
と、クリスはオレンジジュースを一口。

「そう。
 オオカミが出るかもしれないから、しばらくはやめておきなさい」
いつになく真剣な顔で言うドロシー。

「え?」

ばさ、と新聞を広げ、とある記事をクリスに見せる。

「ここ。フィリップさんのところの牧場の羊が、オオカミに襲われたみたいなの。
 オオカミが住んでいるところって、あの森じゃない。
 子供が一人で行くのは危ないよ」

「で、でも…」

「ほとぼりが冷めるまで。せめて安全が確認できるまで。」

ふとロビンの事を考えた。
オオカミ…。
でもロビンは、昨日はあそこでずっと寝ていたはずだ。

「ごめんね、せっかくいい場所見つけたんだと思う。
 でも、あんたを危ない目に合わせたくないんだ。」

「う、うん。分かる…」

「良い子だね。」
ドロシーはクリスの頭を軽く撫でた。

「それじゃ、そろそろあたし仕事行くから。
 後片付けと戸締り、よろしくね」

「うん。行ってらっしゃい」

鞄と車のキーを手に、ドロシーは玄関へ向かう。

「クリスもね、気を付けて」

ぱたん、とドアが閉まった。

クリスは改めて、新聞の記事を読んでみた。
牧場を経営するフィリップさんの羊が襲われたそうだ。
と、言っても幸い怪我人もなく、羊にも被害は無し。
柵が少し壊されたようだが、羊達はオオカミにいち早く気づいたフィリップさん達により
小屋へ避難。オオカミは追い払われ、どうにか事なきを得たようだ。
とは言え。
またいつ襲ってくるのか分からない。

それに。

ロビンが普段、どこでどんな生活をしているのか。
ずっとあそこで過ごしているという事でもなさそうだ。
お菓子しか食べていないわけではあるまい。
オオカミなのだから、肉ぐらい食べるだろう。

「・・・・・・」

そこまで考えて、クリスはぶるぶると頭を振った。

いやいや。
まさかそんな。

ロビンが犯人とは限らない。
他のオオカミかもしれないし。

そんなことよりも。

「はやく学校行かなきゃ」

一応母親に「行く」と言ってしまった以上、学校に行っておかなければ。

本心から言えば、いち早くロビンの元へ行って、無実を確認したいのだが。

素早く朝食の食器を洗い、カゴにふせてから、クリスは鞄を手に、学校へと急いだ。


 

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