「魔女?」 食器を洗う手を止めて、パルムさんはクリスの方を見た。
放課後、クリスはパルムさんの所へ立ち寄った。
ちょうどクッキーを焼いていたところだったので、 一緒にごちそうになった後、二人で後片付けの最中だ。
「ううん、そういう人には会ったことないなあ。」
「パルムさんも知らないんなら、本当にただの噂なのかな」
クリスはテーブルを拭きながらつぶやいた。 他愛もない子供の作り話か。
「オオカミの群れならいるけどね。
魔女とか、そういう噂作るの子供たちが好きそうだね」 「うん…。あれ、ロビンは」
オオカミと聞いて、ふとロビンの事が気になった。 大きな灰色の毛のかたまり。 ぶっきらぼうで少し怖くて、本当は優しい。
人の言葉を話す不思議な動物。 今日はまだ姿を見ていない気がする。
クリスはきょろきょろと、室内を見回した。
寝てた。
部屋の1番日当たりの良い場所で、丸くなってすやすやと 寝息をたてている。
「なんだ、そこにいたのか」
少しほっとする。
「今日はそこでお昼寝のようだね」 「そうなの、気が付かなかった…」
クリスは、ロビンの頭を優しく撫でてみた。 ふわふわの毛の感触が、手のひらに伝わってくる。
「そろそろ家に帰った方がいいんじゃないかな。 日も暮れてきたみたいだし」
窓の外を覗きながら言うパルムさん。
空がオレンジ色に染まりつつある。
「あ、うんそうだね。 それじゃ、ロビン、またね」
聞こえているのかいないのか、目を閉じたロビンに挨拶をする。
「それじゃあ、パルムさん。 今日もありがとうございました。
また来るね」
「うん、気を付けて帰ってね。 1人でも大丈夫だね」
「はい、何回も通っているから。
大丈夫です」 そんなやりとりを交わしつつ。 本日の授業は終了。
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