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大きな森の木の下で 第二話


薄暗い部屋に、窓から柔らかな日差しが降り注ぐ。
壁やそこかしこに並べられた書架には、本がぎっしりと詰まっている。
ここは学校の図書室。

部屋の隅の席に、クリスは座って本を読んでいた。
本の表紙には「ドリトル先生航海記」と書かれている。

「何読んでるの?」

後ろからエイプリルに声を掛けられた。

「あ、エイプリルちゃん」
「今日は学校来てくれたんだね」
そう言いながら、隣に腰かけた。

「君に会うために来たんだ」
「えええええええええ?!」
がたん、と立ち上がって絶叫するエイプリル。
図書室にいた他の生徒達がいっせいにこちらを見る。
「冗談だけどね」
「ああ、そう」
こほん、と1つ咳をして、まわりの人達に小さく謝りながら
座りなおした。
「まったく、親子そろって…」
「ん、何?」
「まあいいや。
 そうそう、ケーキおいしかったよ。
 まさかそんな腕があるとは知らなかったわ。」
「ありがとう。
 作り方を教えてくれる先生がね」
そこまで言いかけて、クリスはふと考えた。

パルムさんの事をどこまで話していいものか。
信じてくれるのだろうか。
そもそも話すべきなのか?

「近所の方なの?」
「うん、家の近所の森の中に、あ」

なぜか口を滑らせてしまうクリス。
慌てて話を逸らそうと、他の話題を頭の中で巡らせる。

「へー、あの森の中にそんな人が住んでるんだ。知らなかった」

疑いもせずあっさり信じるエイプリル。

もう少し何か疑問に持たないものか。

彼女が単純で良かった。クリスはこっそり、ほっとした。

「そう、そうなんだよねー。ははは…」
「そういえば、あの森って、魔女が住んでいるって噂があるけど」
「え?魔女?」
ぱたん、と読んでいた本を閉じる。
クリスの頭に浮かんだのは、人のよさそうな笑みを浮かべたメガネのおじいさん、
つまりパルムさんの顔である。
「そう。前身真っ黒な服を着て、オオカミをいっぱい引き連れているんだって」
オオカミ。
そう言われて思い浮かんだのは、アップルパイを頬張る大きな灰色のオオカミ、
つまりロビンの姿。

「・・・・・・・・」
うさぎさんのプリントされた可愛いエプロンをした
サンタのような風貌のおじいさん、その傍らにオオカミが1頭。
森に佇むそんな姿を想像してみた。

「うーん…」
どう見ても魔女じゃない。
そもそも男だし。

「見たことない。」
「そうなの、なあんだ」
「その先生、おじいさんだもの」
「おじいさん?昔からそこに住んでるの、その人」

きーんこーん…

そこで始業のチャイムが鳴りだした。

「あ、そろそろ教室に戻らないと」
「そうだね、行こうか」
本を戻した後、少々駆け足で図書室を後にした。

二人そろって教室に入る。
久しぶりに登校したクリスだが、クラスメートは
普段と変わらず、
「おう」とか「おはよう」とか、普通の挨拶をする。
クリスも普通に挨拶を交わす。
窓際の自分の席に着くクリス。
そこへ教師が入ってきた。クリスの方を見ると、満足そうに頷いて
それから授業開始の挨拶を始める。

クリスは窓の外をぼんやり眺め、
そういえば学校に行かない理由ってなんだったかなあ、
なんてことを考えたりしていた。

ぽかぽかと暖かい日差しが教室を満たしていく。
眩しい光、青い空、白い雲。
さわさわと揺れる木々。
退屈な授業を抜け出して、あの光の中に飛び込んで行けたら。

教師の授業の声を遠くに聴きながら、
意識はあの空の方へ。
その向こうの森の方へ。

ゆるやかに時は過ぎてゆく。

 

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