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大きな森の木の下で 第二話


リビングに通されたエイプリルは、緊張した面持ちで、ソファに腰かけていた。

「おまたせ。」

一切れのチョコレートケーキと、ティーセットをトレイに載せて
ドロシーはリビングに入ってきた。

「クリス特製チョコレートケーキ。
 紅茶、お砂糖とミルクはこれね、好きな分だけ入れてね」
そう言いながら、テーブルに並べていく。

ケーキは、スポンジとクリームを何層も重ねた断面が見える。
チョコレートで周りをコーティングし、上にはナッツをまぶしている。

ドロシーは二人分のカップ、それぞれに紅茶をそそいでいく。
エイプリルの方へ、カップを置いた。

「ありがとうございます。
 結構本格的ですね。そういうの好きなんですか?クリス君」

「ここ最近だね。
 なんだか知らないけど、急に目覚めたみたい。
 近所に先生がいるとか言ってたねー。
 ま、手先の器用さは父親ゆずりなのかね」

と、ドロシーは自分用に淹れた紅茶を一口。

「先生?」
「うん、今日も熱心に、習いに行ってるみたいよ」
「・・・・・・・」

ことり、とエイプリルはカップを置いて、
すっと居住まいを正した。

「で、そこなんですけど」
「え?」
「え、じゃなくてですね。
 学校はいいんですか?ずっと休んでるじゃないですか」

ドロシーはスプーンでクルクルと紅茶をかき混ぜた。

「たまに行ってるよねー」
「たまに、じゃなくて毎日来てください!」
つい、声が大きくなるエイプリル。

「す、すいません。
 でも、勉強だって遅れちゃうし、それに…」
「エイプリルちゃんが持ってきてくれるプリントや宿題のおかげで助かってるよ。
 ごめんね、なんか伝書鳩みたいな真似させちゃって」
「いえ、それは良いんです。学級委員長としての」
「務めです、か。
 いやあ、本当にしっかり者よねー。
 学校に来ない子の事をこんなに心配してくれるなんて。
 うちの子のお嫁さんになってほしいくらいだわ。」

口に含んだ紅茶を吹き出しそうになるエイプリル。

「冗談だけどね。」

「・・・・・・」

「ありがとね、心配してくれて。
 でもうちは放任主義だから。」

「…ほーにん」

「やる気になったら行けばいいかなーって。
 無理強いしたって、ますます嫌になるだけなんじゃないかな」

「・・・・・」

「今、何かやりたいことができたみたいだし、
 見守ってあげたいんだ。」

「私はただ…」

「うん、そうだね、分かってる。
 取り敢えず、ケーキ。食べてみたら?おいしいよ」

何か言いたげな表情を浮かべ、数秒の沈黙の後
エイプリルはフォークで1口、チョコレートケーキを口にいれた。

「!おいしい」

「そう?良かったわー、そう言ってくれて。
 クリスも喜んでるわ」

「え?」

エイプリルは後ろを向く。

「あ、ど、どうも」
そこには、いつのまにかクリスが立っていた。

「く、クリス君!いつからそこに!?」
思わず立ち上がるエイプリル。

「ええと、ケーキを食べるところかな」

「ああ、そう…」

すとん、とソファに腰をおろした。
おもむろにフォークを持ち、ケーキを食べるエイプリル。

「クリスも食べる?」

クリスはぱたぱたと手を振って
「あ、僕は。食べてきたから」
「そう?お茶はどうかな」
ドロシーはティーポットを持ち上げながら言う。

などと二人がやりとりをしている間に、エイプリルは一気にケーキを食べ終えていた。

「ごちそうさまでした」

がたん、と立ち上がり、ぺこりと一礼する。

「今日はケーキをごちそうしていただきまして、ありがとうございました。」
「あ、いえいえどういたしまして。もういいの?おかわりは?」
「いえ、十分いただきましたので」

そしてくるりとクリスの方へ向くと、ぎっと睨み付け、

「クリス君、明日は…学校に来るよね?」

その迫力に気圧されて
「あ、は、はい。すいません」
と返事をするのが精一杯なクリスであった。

「どうも、おじゃましました!」
玄関まで見送る暇もなく、駆け足で帰っていくエイプリル。

「また来てねー。
 あらら、忙しい子ね。ねークリス。」

さり気なく、自分の部屋に戻ろうとするクリスを、ドロシーは呼び止める。

「あ…ははは…」
「と、いうわけだから、ね。」
「うん…」

ドロシーはにっこり笑って、クリスの頭をぽんぽん、と軽く叩いた。

 

 

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