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大きな森の木の下で 第一話


がたんっ

がちゃっ

急にドアが開いた。

そして、中から大きな影がにゅっととびだした。

クリスは驚きのあまり、足がすくんでそこから動けなかった。

大きな影は、さらに外に出て、クリスのほうにぐっと顔を寄せる。

おじいさんだ。立派な白いひげが、顔半分を覆って、目と鼻と頬くらいしか見えていない。

片手には、なにやら棒のようなものを持っている。手はなぜか、白い粉まみれだ。

「おお、ちょうどよかった」

そういうとおじいさんは、クリスの肩をぽんぽんとたたき、

「人手がほしかったんじゃ」

そういうと、強引にクリスを部屋の中に引っ張っていった。

クリスは怖くて、声をあげることも、抵抗することもできず、ただ引っ張られるままにおじいさんについて行った。

連れてこられたのは、台所のようである。いくつもの鍋、色とりどりの食器。壁にはマグカップやフライ返し、泡だて器などの調理器具がぶら下がっている。

大きなキッチンストーブは熱く熱せられ、今まさに何かを焼こうと、赤い炎が手招きするように燃えていた。

流し台の手前に ある調理台には、小麦粉と、それを練った生地がおいてある。

もしかすると、僕の丸焼きとパンが今日の食事なんだろうか。

クリスは背筋がぞっとした。

逃げなくちゃ。

頭の中はそう言っている。

でも、体のほうは、凍って床に足がくっついてしまったかのように、ピクリとも動かない。

「ここに生地を敷くから、リンゴを並べてくれんか?」

おじいさんはクリスに声をかけてきた。

生地を丸い型に入れ、器のような形に押し込まれている。その上に、リンゴを並べてほしいらしい。

なんだか怖いので、取り敢えず従うことにする。

クリスは恐る恐る近づいて、ボウルを受け取った。中には薄くスライスされたリンゴが入っている。

あらためておじいさんを見てみる。

小太りで白いひげ、まるい眼鏡。シャツの袖を腕まくりし、エプロンをつけている。

例えて言うなら、シーズンオフのサンタさんが、お家で家事をしている、といった感じだ。

「ん、ああ、料理の前に手を洗わないとね。そこで手を洗って、エプロンも用意するよ」

フックに引っ掛けてあったエプロンをこちらによこした。

うさぎさんやねこさんのプリントされている、かわいいエプロンだ。そういえば、おじいさんのしているエプロンも、花柄でピンクのやけにかわいいエプロンである。

クリスは急いで手を洗い、エプロンをつけた。大人用なので、丈が長くて足首まで隠れてしまった。

リンゴを生地の上に敷き詰めていく。生地が隠れるくらいになると、おじいさんが、そのうえからシナモンをかけてから、クリームを重ねていった。さらにリンゴをのせる。

「次はこのパイ生地をのせるよ」

細長く切ったパイ生地を格子状に並べると、その上からハケで卵黄を塗っていく。

「さ、あとはオーブンに入れて待つだけ。その間にお茶の準備をしようか」

なんだかよく分からないまま、クリスはおじいさんの手伝いをしている。

隣の部屋は、カントリー風の暖かな雰囲気のインテリアで統一されたダイニングだった。

テーブルにランチョンマットを敷いたり、お茶のセットを用意したりした。

知り合いの家のティーパーティーに招かれたみたいで、何だか楽しかった。

恐怖心など、いつのまにか吹っ飛んでしまっている。

そうこうしているうちに、パイも焼きあがり、お茶もテーブルも、準備が整った。

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