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大きな森の木の下で | 第一話 |
僕は走っていた。 森の中を無我夢中で。 悔しさと悲しさで頭をいっぱいにして。 走っていた。 何も考えずにいられると思った。 嫌なことも忘れられると思った。 ** ママとケンカをした。 すごく小さなことだったと思う。 それでも、クリスは思わず、家を飛び出してしまった。 気が付いたら、家の近くの森の中を走っていた。 どれくらいたっただろう。 クリスは立ち止まった。 目の前に、大きな木があった。 大人が十人手を広げて輪になって囲んでも足りないくらい、大きな幹。 見上げてもてっぺんが見えないほどの高さ。 周りの木に比べても、それだけがどんと、ボスのように一際大きく立っている。 クリスはしばらく、ぼーっと見惚れてしまった。 こんな森の中に、こんなに大きな木があったなんて。 どうして今まで気が付かなかったんだろう。 クリスは木の幹をぺたぺた触りながら周りを歩いてみた。 何歩か歩いて、丁度半周したあたりで、クリスは木の幹に、大きな穴を見つけた。 子供ならかがんで入れそうなくらいの大きさだ。 クリスは中がどうなっているのか確かめたくて、その中に入った。 中はひんやりしていて、木と土の良い匂いがした。 少し行くと、下の方に角度がついて伸びる通路がある。 都合よく、木の根が階段のように折り重なって、下に下り易いようになっている。 クリスはわくわくして降りていった。 この下には何があるんだろう。 アリスみたいに、不思議の国に繋がっていたりして。あるいは未来の世界にタイムスリップしちゃうのかな? しばらく降りていくと、ふと、周りが明るくなってきた。 淡い、ランプのような暖かい光がぼんやりと見える。 クリスはそこに向かって、さらに降りていった。 明かりが強くなり、階段の一番下まで来た。 そこには、玄関ほどの小さな空間があり、木でできた扉が一つ、突き当たりに付いている。 そのとなりの壁のくり貫かれた小さな穴に、剣の形をしたクリスタルが数本突き出した置物が置いてあり、それが淡く光を放っていた。 それが明かりの代わりなのだろうか。 その下には、ちょうど喫茶店の前に置かれているメニューのような、小さなイー ゼルが置かれていて、そこに置かれた黒板には 「お気軽にどうぞ!」 なんてメッセージが書き込まれている。 クリスはなんだか、急に怖くなった。木の下の、こんな奇妙な場所に住んでいるなんて。 もしかすると、森に住む魔女の家かもしれない。 お気軽に、なんて誘っておいて、家に入ったら最後。お鍋で煮られて食べられてしまうのではないか。 そう思ったクリスは来た道を引き返すため、足を一歩後ろにひいた。 後ろを向こうとした、そのとき。 |
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